光と沈黙の間—春日るり子が奏でる雅楽と越境の記録
Sophia Edwards
春日 るり子は、「守る」だけで終わらない雅楽の人だ。出雲の社家で育ち、幼いころからピアノや巫女舞、龍笛を学び、17歳で篳篥に出会って本格的に鍛えた。古典の音色を鳴らす同じ手で、現代曲や国際イベントの舞台にも足を運ぶ。
春日 るり子は島根県出雲市出身で、幼少期から舞と楽器を学び、17歳で篳篥を本格化。東京芸術大学(邦楽科雅楽専攻)2017年卒業・安宅賞受賞後、雅楽と巫女舞を核に国内外で演奏し、現代曲や多文化企画にも広げている。
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 名前 | 春日 るり子(Kasuga Ruriko) |
| 出身 | 島根県出雲市 |
| 専門 | 雅楽、巫女舞・白拍子舞、篳篥(ひちりき) |
| 決定的な転機 | 17歳で篳篥と出会い研鑽 |
| 学歴 | 東京芸術大学 音楽学部邦楽科 雅楽専攻(2017年卒) |
| 受賞 | 安宅賞 |
| 近年の活動 | 女性4人組ユニット「ESPERANZA」参画、和楽器×洋楽器の融合 |
出雲で始まった“音の作法”——春日るり子の原風景
春日 るり子の物語は、最初から舞と楽器が分かちがたく結びついている。島根県出雲市に生まれ、三十一代続く社家の家に育ったという背景は、彼女の音の選び方に影響している。音楽は単なる演奏技術ではなく、場の空気、祈りの姿勢、目に見えない規律として受け継がれていく。
幼少期から学んだのは、ピアノだけではない。巫女舞、龍笛といった要素が早い段階で組み合わさり、手の使い方や呼吸の置き方が“身体の中”に染み込んでいく。こうした複数の訓練は、のちに雅楽を中心に据えた際、音を鳴らす身体の地盤として効いてくる。
17歳の出会いがすべてを変えた——篳篥(ひちりき)という重力
転機は17歳で訪れる。篳篥(ひちりき)と出会い、そこで研鑽が本格化した。篳篥は音色が立ち、同時に難度が高い。音を押し出すだけでは成立せず、息の密度と舌の位置、旋律の輪郭が同時に求められるからだ。
彼女は三浦元則、山田文彦といった著名な師匠の下で徹底的に学んだ。師につくことは単なるレッスンの継続ではない。どの拍で身体を置き、どこでためを作るか。音を“意味のある形”に整える手順が、長い時間をかけて身につく。
この時期の積み重ねが、のちの「古典から現代まで」という幅の広さを可能にした。現代曲に挑むとき、彼女は別ジャンルの技術を“乗せる”のではなく、篳篥の作法そのものを携えて音楽の文脈を組み替えていく。
2017年、東京芸大卒業と安宅賞——評価が追いつくまでの時間
春日 るり子は2017年、東京芸術大学 音楽学部 邦楽科 雅楽専攻を卒業した。雅楽専攻は、単に伝統曲を演奏する場所ではなく、資料を読み、様式を理解し、学術的な視点で音を扱う訓練でもある。
そこで安宅賞を受賞している点は、彼女の活動を「実演家」としてだけでなく「担い手」として裏付ける。受賞は結果であると同時に、訓練がどのように評価されるかを示す指標にもなる。音楽の世界では、誰かが“魅力的に見える”より先に、“正しく扱える”ことが信頼を積み上げる。
大学で得た視点が、その後の選曲にも表れてくる。古典の文法を押さえた上で、現代の作曲家が求める手触りへと調整できるからだ。
舞台は祭りから国際へ——巫女舞と篳篥の実戦記録
春日 るり子の演奏は、雅楽と巫女舞・白拍子舞を行き来しながら展開される。どれか一つの“看板”に固定しないのは、出雲での学びが「音と役割のセット」であることを教えているからだろう。
FUJI ROCK FESTIVAL’18と大規模空間での音
2018年、FUJI ROCK FESTIVAL’18で巫女舞・篳篥演奏に登場している。フェスという大規模で騒がしい環境で、雅楽の音色を立ち上げるには、音量だけでは足りない。リズムの気配、観客の視線をつかむ間、音の立ち上がりを作る呼吸が勝負になる。春日 るり子はそこで、伝統を“飾り”にせず、身体の規律として提示した。
TIMF国際音楽祭での現代曲「蛍火」初演
国際的な音楽祭でも、彼女は現代曲の前に立つ。TIMF国際音楽祭で現代曲「蛍火」の初演に携わった。初演は、作曲家の意図だけでなく、演奏家側の判断が試される場でもある。古典の響きを知る人ほど、現代曲で生じる“あいだ”の設計に慎重になる。
TEDxTokyoや斎王プロジェクト奉納——祈りの形式を共有する
TEDxTokyoでの登場や、斎王プロジェクトによる伊勢神宮奉納演奏など、彼女は宗教的・文化的な場の形式を尊重する形で活動している。伊勢神宮のような場所では、音の美しさ以前に、場に対する身体の向きが問われる。春日 るり子の経歴は、そこに適応できる訓練の厚みがあることを示している。
政治・文化イベントでも見える“音の外交”
春日 るり子の活動は、音楽会に閉じていない。日本遺産「日が沈む聖地出雲」をテーマにした『夕紅のしらべ』など、地域の物語と音を重ねる企画に関わってきた。地域の伝承や地名の重みを音として組む仕事は、音楽の専門性に加えて、説明力や企画側との調整も必要になる。
さらに象徴的なのが、イヴァンカ・トランプ氏訪日時にあわせたサプライズ白拍子舞だ。こうした場面では、演目の正確さだけでなく、短時間で“伝わる形”に整える力が要る。春日 るり子の白拍子舞は、華やかさで誤魔化すのではなく、身体の線と拍の芯を揃えることで短い尺でも成立している。
『夕紅のしらべ』が示す——伝統を“物語化”する技術
『夕紅のしらべ』は、「日が沈む聖地出雲」という日本遺産のテーマと結びついた作品として紹介されている。ここで重要なのは、音楽が単に祭礼の音を再現するだけでなく、“物語の時間”を作っている点だ。夕景は視覚の体験だが、音に置き換えるときは、静けさ、余韻、言葉にならない感情の揺れをどう設計するかが問われる。
春日 るり子が得意とするのは、この「感じの翻訳」だろう。雅楽の様式を基礎にしながら、観客が追える感情の軸を作る。伝統の音が、現代の聴取体験に接続される瞬間が生まれる。
ESPERANZA——和楽器×洋楽器の融合で広がる領域
近年、春日 るり子は女性4人組ユニット「ESPERANZA」のメンバーとしても活動している。ポイントは、単なる“異なる楽器の同席”ではないことだ。和楽器と洋楽器を融合させるなら、音程の重心やフレーズの切り方、響きの時間の扱いまで調整が必要になる。
ESPERANZAで彼女が担う役割は、雅楽の作法を損なわず、別の音体系の中で成立する形を探ることだ。古典を抱えたまま現代のアンサンブルに適応する姿勢は、近年の聴衆が求める「伝統の現在性」に直結する。
2025年には出雲市でのコンサートでチェロ奏者・舟木真菜さんと共演し、姉妹による雅楽とクラシックの融合を披露した。姉妹という近さは、音楽的な会話の速度を上げる。弦の長い響きの中で、雅楽の芯のある息がどう溶けるのか。こうした取り組みは、彼女がジャンルを“跨ぐ”より前に、“接続の設計”をしていることを示す。
春日 るり子が示すもの——伝統は固定ではなく、応答だ
春日 るり子の歩みを追うと見えてくるのは、雅楽が静かな博物館ではない、という事実だ。彼女は篳篥を中心に、巫女舞や白拍子舞の身体性も携えながら、フェス、国際音楽祭、奉納、地域の物語、海外要人の場まで対応してきた。
その適応は、単に“場所を選ばず演奏する”という意味ではない。どの場でも、音の役割を変えている。祭りでは祈りの密度を保ち、国際舞台では短い時間で伝わる線を整え、現代曲では様式の枠を緩めるのではなく、枠の外側にある呼吸を合わせる。
伝統を守る人が、未来を想像できるか。その問いへの答えが、春日 るり子の演奏には繰り返し現れている。光と沈黙の間にある“応答”を、彼女は音で作り続けている。
Frequently Asked Questions
- 春日 るり子は何を専門にしていますか?
雅楽、篳篥(ひちりき)に加え、巫女舞・白拍子舞なども含む舞と音楽の分野で活動しています。 - 篳篥(ひちりき)に出会ったのはいつですか?
経歴によれば、17歳で篳篥と出会い、本格的に研鑽を重ねたとされています。 - 学歴と受賞歴を教えてください。
東京芸術大学 音楽学部邦楽科 雅楽専攻を2017年に卒業し、安宅賞を受賞しています。 - 国際的な活動にはどんなものがありますか?
FUJI ROCK FESTIVAL’18での演奏、TIMF国際音楽祭での現代曲「蛍火」初演、TEDxTokyoや奉納演奏などが挙げられます。 - 近年のユニット活動はありますか?
女性4人組ユニット「ESPERANZA」に参画し、和楽器と洋楽器を融合させるパフォーマンスにも取り組んでいます。